投資信託がこれだけ利用されている理由をご存じですか?
現代ポートフォリオ理論(Modern portfolio theory 以下MPTと略)が編み出されたからです。MPTは頑健で、私のお客様は、この理論に基づいて運用している方々が殆どですし、また私が投資教育講師をしている確定拠出年金でもMPTに基づいた投資方法が説明されています。なぜなら前提(仮定)を単純化して数式で説明していますので、使い勝手がとても良いのです。(MPTとそれから派生した理論については、このレビューでも取り上げた「現代ファイナンス分析 資産価格理論」が良書です。)
しかし世の中に完全なものが無いように、MPTにも限界があります。本書はその限界を超えて、MPTをもっと役立つために改良するための提案書です。その具体策として提示するのが「ESG投資」です。今まで私はそれをSRI(社会的責任投資)の延長のように捉えていたのですが、この本を読み、その意味と狙いが分かると、「どうりでECB(欧州中央銀行)がESGに積極的になるわけだ。」と納得しました。
ただそれがMPTによる従来の投資を改善する効果があるのかについては、「CAN ESG ADD ALPHA?」や「“Honey, I Shrunk the ESG Alpha”: Risk-Adjusting ESG Portfolio Returns」など賛否両論があり、本書が力説するほど客観的にその効果が証明されているわけではないようです。
しかし気候変動問題などが表面化し、大量消費社会の持続可能性が危ぶまれている今、本書が取り上げたアイデアは魅力的で、今後研究が積み重ねられていく分野だと思います。
「ESG投資」や「行動ファイナンス」などの研究が進展すれば、どこかでブレイクスルーが生じて、MPTより洗練された投資理論が確立されているのかもしれない、そんな気持ちになりました。