データが語る経済変動のメカニズム ーマクロ経済学再構築の試みー

 50年~100年、時には150年以上のパネルデータを基に経済変動を分析している労作です。
 
・全ての取引の起点は消費(需要)であること。

・毎日の一つ一つの取引の合計が、経済全体の変動を形作っていること。

・需要と供給の関係から、短期的に約4年周期の変動が確認できること。

を見出している点に、著者の着眼点・センスの良さを感じます。

 2016年に米国で失業率が低下しても賃金が上昇しないのでフィリップス曲線は成立するのかが話題になりましたが、本書の解説の通り、失業率低下と賃金上昇にはタイムラグがあることを考慮すれば成立しており、失業率低下後に利上げを急がなかったFRBの判断の確かさが理解出来ました。

 さらに、第6章 通貨量変動のメカニズムを読むと、結局レビュー当時(2017/3)の日銀の金融政策は、「輪転機を回してお金を刷る。」ように通貨量を増やすのが目的ではなく、運用難により国債市場に安易に資金が流れ込まないように国債を買い取りつつ、低金利を続けて会社・個人の投資や消費を後押しし、日本経済を元気付けることが狙いであることが、よく判りました。

 他にも、米ドルが基軸通貨となっていることで米国が被る不利益も指摘しており、トランプ大統領の目指す「強い米国」と「輸出増」が両立し難いことが理解できます。

 残念なのは、P103~P110のように著者の意見だけを書いていたり、結論を急ぎ過ぎでは?と思ってしまう箇所があることです。例えば二つの曲線を生成して、それらの動きを比べて結論を導いていますが、同じと見なした二曲線の動きが、かなりずれている事例が見受けられますので、ずれや違いについて「大恐慌論」のバーナンキ氏のように計量経済学の手法を用いて詳細に分析し、そこから浮かび上がる事実だけを予断なく議論すれば、素晴らしい本になったはずです。

 着眼点・センスの良さが光るだけに、本当に惜しい一冊です。