マルチンゲールアプローチ入門 デリバティブ価格理論の基礎とその実際

 これ、ものすごく面白いです。

 幾何ブラウン運動に従う確率微分方程式の「伊藤の補題」を使った解き方に始まり、ブラック-ショールズ式の、積分を利用した導出方法以外に、ギルザ(サ)ノフの定理を使って「確率を変える」について詳細に解説しつつ、マルチンゲールアプローチによる導出方法を教えてくれます。また、以上の理解を基に、ブラック-ショールズベースの様々なオプションの価格式の解き方やフォワード価格と先物価格の違いなどを、懇切丁寧に説明してくれます。おまけにブラウン運動や条件付期待値の、わかりやすい解説付きです。まさに「至れり尽くせり」で、「そう、そこが知りたかった! ありがとう!!」と言いたくなりました。

 振り返ってみれば、私には各章を順番通りに読み進める方が無難でした。著者が、1章を読んだ後、3章を読んで2章に進む、という読み方を紹介されていたので、その通りにしたら、3章のマルチンゲールアプローチによるブラック-ショールズベースの金利キャプレットの価格式を解くのに、確率の変え方をさっぱり思いつかず、1週間位考え込んでしまいました。結局マルチンゲールアプローチは諦めて積分利用で解きましたが、その後に読んだ2章に方法がずばり解説されていて、拍子抜けしてしまいました。

 別レビューで紹介した「リアル・オプション分析」には、具体的な動作や実装の仕方が解説されていますから、併せて読めば更に理解が深まります。両著者はいずれも、外資系証券会社や外資系投資銀行で実務経験を積み、博士号も取得されており、努力を続けて経験と知識を融合することの大切さを教えられました。

 今後はこの本で得た知識を土台に、「確率解析の森」に分け入ってみるつもりです。無事に探検が終えられたら、モンテカルロシミュレーションによる企業価値評価に応用してみたいです。私ごときにもそう思わせてくれるくらい、「解った!」という実感を与えてくれる、良い本です。

 「確率解析の森」の前に建設された「確率解析ランド」のようなものかもしれません。ブラック-ショールズ式、ブラウン運動、ギルザ(サ)ノフの定理などのキャラクター達と各アトラクションを、時間が経つのを忘れて楽しんでみてください。