リオリエント

「西洋の技術と知識、社会制度が未開の諸国にもたらされたお陰で、今の世界経済の繁栄とグローバル化が実現した。」という通説を否定しているのが本書です。

遅くとも1500年頃には世界規模の分業と交易を備えたグローバル経済が存在し、最も豊かな国が中国、次いでインドであったこと、世界経済の中心がアジアにありアジア域内貿易が活発に行われていたこと、西洋が産業革命により新興工業国として遅れて世界経済の中心に躍り出てきたこと、しかし20世紀後半になって再びアジアに世界経済の中心が移ってきていることなどを指摘しています。つまり今に始まったことではなく、世界は昔から互いに緊密に繋がっていて、物や人やサービスが移動しあっているわけです。ですから「日本は鎖国により世界から孤立し、米国からの黒船来航で再び世界と繋がった。」という認識がイメージ先行の想像にしか過ぎないことが分かります。

また中国の陶磁器や絹織物、インドの綿織物などを求めて、アメリカ大陸で産出した銀を西洋がアジアに持ち込み、それに日本の銀が加わって今でいう金融緩和が起こり、当時生産性が高かったアジアで経済成長により人口が増加したことや、1600年前半に銀不足によって生じた世界通貨危機が中国の明滅亡や日本の鎖国(銀流出防止のための貿易管理)などの原因になっている可能性など、現代の金融政策に通じる記述もあり面白かったです。

しかし西洋中心のグローバル経済史を批判するあまり、著者が西洋を低く評価し過ぎている印象を持ちました。というのは英国の産業革命にグラスゴー大学が関わっており、今のシリコンバレーのような存在が英国にあったからです。ですから著者が言うように、商品競争力がないにも関わらずアメリカ大陸の銀や奴隷労働を搾取することで、かろうじてアジア貿易に参加出来ている遅れた地域が当時の西洋だとしたら、そのような産学連携の技術革新を行えたとは到底思えないからです。西洋の学術研究の発展の様子や、アジアがその発展に寄与していたのならその様子なども具体的に記述出来ていたら、当時のアジアと西洋の正確なパワーバランスや経済の主役交代が起こるほどの技術革新の様子を描くことが出来たはずです。

いすれにしろ、グローバル経済史は役に立つし面白い、と実感できる本です。