「豊富で安価な石炭の存在と高賃金経済」がイギリス産業革命を引き起こした主因というのが本書の結論ですが、それ以外にも様々な要因が絡み合ってイギリス経済が発展し産業革命に至ったことを見事に分析しています。
興味深かったのが、1900年代にアジアなどで起こった緑の革命による「農業生産性の向上」や、現在ラオスの手織物業で起こっているような「プロト工業化」が、当時のイギリスでも起こっていたことです。それらが欧州域内貿易でのイギリスの毛織物工業の競争力を高め、新大陸の発見や大陸間貿易の進展と相俟って、都市化と高賃金経済に貢献したことを知り、産業革命のような飛躍的な経済成長が起こるまでに、様々な過程とそこでの競争に打ち勝つことが必要であることを学べました。
これら以外にも、蒸気機関や紡績機の発明や改良、またそれらに学術研究が影響を与えたのか等、多角的に分析・検証しています。さらに第5章では、「なぜイギリスが成功したのか」について回帰分析の結果を紹介しており、とても興味深い内容となっています。このあと第5章をもっと理解するために、その基になったAllen(2003)「Progress and poverty in early modern Europe」を読んでみるつもりです。
ところで私はかねてから、「人口増加=経済成長」と短絡的に結論付ける議論が疑問でした。本書は、当時イギリスより人口の多かったフランスで紡績機が発明されなかった理由についても書いており、「人口が増加する国ほど経済が成長する。」と単純に言えないことを再認識できました。
グローバル経済史研究の凄さが分かる良書です。一読の価値が十分にあります。