大恐慌論

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。」

という言葉を、この本を読み、思い出しました。

著者は、大恐慌時の失敗から学び、FRB議長としてリーマンショック時に
同じ轍を踏まず、米国経済を金融危機から救い出すことに成功しました。

その成功の理由が、大恐慌を研究した9つの論文集である本書を読むと伝わってきます。

最後まで読んでみて、
「総需要ショック(大恐慌やリーマンショック)から立ち直る」 = 
「実質賃金が増加するとともに、生産も増加する経済を取り戻す」 ことであり、
それは即ち、「働くほどに豊かさが実感でき、将来に希望の持てる暮らし」を
実現していくことなのだと分りました。

そのために、著者はマネタリーベース拡大を当時決断しました。
著者の決断には賛否両論あるでしょうが、どういう知見に基づいていたのかが
本書を読めば判ります。その点で、第4章 「大恐慌時のデフレーションと貨幣収縮」
はお勧めです。

また、思い込みに囚われず、多国間や多産業間のデータを基に全体を俯瞰しつつ、
大恐慌の原因を厳密に探る著者の姿勢にも、触れることが出来ます。

ところで、本書を理解するために最低限、対数差分の意味を理解しておくことと、
「実証分析のための 計量経済学」(中央経済社)などを読み、
回帰分析結果の読み方を理解しておくことをお勧めします。

より深く理解したいなら、「計量経済学」(多賀出版)などを読み、
計量経済学について勉強しておくことをお勧めします。

著者は素晴らしい実績と知見を持ちながら、才能を過信することなく謙虚で、
理論に溺れて現実を見逃すこともないのだろうと、思わせてくれる一冊です。