数理ファイナンス入門 -離散時間モデルー

 「人口知能(AI)とスマホ取引を利用すれば、投資で上手くやる方法があるのでは?」 と思ってしまいますが、この本から得た結論は、「他を出し抜くのは、益々困難になる。」でした。
 
 AIが見付けた、今まで見落とされていた情報が、スマホ取引により簡単に価格に織り込まれれば、割高・割安な状態(裁定機会)が減り、この本が扱う ”リスク中立確率測度” の役割が増すはずです。
 
 リスク中立確率測度を前提にすれば、成長がなければ、投資より預金の方がまし、になりかねません。が、幸いなことに経済は長期的に成長しています。そしてこの成長は、預貯金だけでは獲得できません。ですから、獲得の為には「長期投資」が、今後重要になるのかもしれません。

 ところで、連続時間モデルとは違い、高度な数学知識は不要です。しかし省略してシンプルに記述しているので、例えば、Ut(W) = Max{ ln(c) + (w-c)^γ/γ }の場合、c = (w-c)^(1-γ)としか書いていなければ、cで偏微分して、1/c + γ × 1/γ × (w-c)^(γ-1) ×(-1) = 0 とすれば c が求められる、程度は自分で気が付けること、加えて線形代数や「確率を変える」ことを、事前に理解しておく必要があります。

 また私は、問題(解答なし)まで解かないと理解できず、一つ解くのに連休が潰れてしまったことがありました。(T T)

 P215のλ1とλ2では、ω1、ω4、ω5の二つの状態価格密度が関連し合う時、V2 が求まらなかったので、私の理解不足なのか、状態価格密度が複数の場合に、もっと考慮すべきことがあるのか、また、本書で取り上げている効用関数のうち、現実に最も適合するのはどれなのか、出来れば調べてみるつもりです。

 ところどころ誤植や細かなミスがあり、例えば、P237の δ(t) は、σ(t) が正しく、(6 . 33) のミスに気が付かなければ、問 6.12 が解けませんでした。

 離散時間モデルだから簡単、とはいきませんでしたが、リスク中立確率測度が十分に理解できる本です。