グループが無人島生活を体験する番組で、勘を頼りに海岸からジャングルを抜けてベースキャンプに帰ろうとするのですが、さんざん迷った挙句、円を描いて元の地点に逆戻り、というのを視たことがあります。もしかしたら、理論を学ばず「経験と勘」だけで投資をするのに似ているかもしれません。
この本は、ローザンヌ大学のMBF(Master Of Banking and Finance)コースが、ファイナンス専攻MBA・同理論専攻修士課程用テキストとして書いたものの日本語訳です。別レビューの2冊、「資産運用の常識・非常識」が難なく理解できる人が、「マルチンゲールアプローチ入門」の前に読んでおくのに最適です。ですから、無裁定価格理論の連続時間アプローチにまで興味のある人には、物足りないはずです。
リスク回避度、均衡理論と裁定理論や各々の関係にはじまり、ひいては、不完備市場の財務構造と企業価値(これオススメ)なども解説しています。日本語訳が良いので読みやすいのですが、ある程度の予備知識(ポートフォリオ理論など)と数学的な素養(特に微分)が、理解するために必要です。
残念ながら、この本が必ずベースキャンプに連れて帰ってくれるわけではありません。せいぜい、方角の見極め方、水場の探し方などを教えてくれるくらいです。それでも理論を学ぶのは「経験と勘」だけより、ずっと価値があり楽しいことだと思わせてくれる本です。