今回は、前回紹介した「マクロ実証会計研究」の巻末に記載されていた参考文献の中からの紹介です。
スタンフォード大学経営大学院のCharles M.C.Lee教授(会計学)とミネソタ大学カールソン経営大学院のSalman Arif准教授(会計学)(いずれも2021/2/22時点の肩書)の共同研究による論文で、2014年に Review of Financial Studies に掲載されました。
「事業のための設備や研究開発への投資を企業が決定する場合でさえ、その時のセンチメント(例えば私が思い浮かぶのが、自社株の上昇・強気な業績見通し)に判断が左右されて、行き過ぎ(バブル)が発生し、その後の経済成長や景気、株式(特に成長株)のリターンにも影響を与えてしまう。」ことを実証した研究です。つまり、事業のための設備や研究開発への投資が増えているかどうかに、景気や株価の先行きを予測する力があるわけです。
昔日本で起こった不動産バブルのように、過剰な融資が横行すればダブついた資金で土地やビルを買い漁る会社が出てくるのかもしれませんが、事業のための投資でそんなことが起こるなんて・・・と意外です。しかし私の乏しい経験の中にも思い当たる節がありますし、先日のTVで、マグロ漁師さんが数年の豊漁続きで思い切って借金をして船を新調したら、その後不漁がやってきたというのを観たりすると、物事の本質をよく捉えている研究だと思います。
先行研究のニッチを十分に達成し独自性も際立ちますが、高度な数理モデルが使われているわけではなく、どちらかというとわかりやすい重回帰分析だと思います。また誰も思いつかないような仮説を立てて検証したものでもありません。むしろ、周りの雰囲気や気分に左右されてしまうという、人本来の性質を十分に理解した上で、適切に分析データを選択したからこそ成し遂げられた研究だと思います。人に対する深い洞察と物事の本質を見抜くことが何より大切なことを教えられました。
もしかしたらバブルかもしれない株価(2021/02時点)の先行きを検討する上で、とても参考になりました。