1983-88年の日本の株価がバブルかを検証した1989年(改訂版1990年)の論文です。執筆者は植田 和男 東京大学教授(当時)、ご存知のとおり現在の日本銀行総裁です。
バブルの最中は専門家であっても分からないものです。それで1980年代後半の日本の株と不動産がバブルであった時期に、専門家がどのような議論をしていたのかに興味が湧き、「日本の株価水準研究グループ報告書をめぐって」という座談会(1988年12月開催 翌年1月証券アナリストジャーナル掲載)を読んでみました。案の定、株価水準について楽観的な発言が見受けられましたが、植田 和男 大阪大学助教授(当時)はバブルの可能性を指摘していて印象的だったことが、この論文を読むきっかけになりました。
シンプルなモデル(PER:株価収益率、PDR:株価配当率)を使って分析されていますが、インフレ率、持ち株比率、投資比率を加味してモデルを構築しているのが参考になりました。また時系列に分析することで1980年代後半のリスクプレミアムの低下を指摘していることや、事実を積み重ねて多角的に(株式持ち合いや地下の影響なども)分析している点、当時盛んに議論されていた「トービンのq」を、見落とされがちだった土地バブルの影響も考慮して計算している点が流石でした。
配当割引モデルを変形して株価を推計して、1958-61年、1972-73年に続く株価革命が起こっている、という議論もありましたが、そこには将来に対する楽観や、モデル構築のために現実を過度に単純化する傾向が入り込む余地がありました。現実を直視して起こっていることを出来るだけ正確に把握するためには、企業の稼ぐ力に着目して時系列に分析することで過去との違いを炙り出すという、この論文の手法が効果的であることを学べました。
読んでいて、植田総裁が今の日本の金融政策の舵取りを担なっておられることは、とても有難いことなのかもしれないと思いました。