119頁の “all tradables in a market should have the same market price of risk.” が、この本の真髄です。
2~3章の、二項モデルを使った無裁定価格理論・リスク中立確率・確率変更の説明が秀逸です。特に「フィルトレーション」と「マルチンゲールとなる確率」の関係(”tower law”)とは何かが、本当によく分かります。
本書は簡潔な説明に終始し数式の証明が殆どないので、予備知識があった方が良いです。例えば122頁の最後の数式に σt^2 が突然現れますが、伊藤の商の公式を知らないと理由が全く解りません。ですから別レビューの「マルチンゲールアプローチ入門」を読んでおくと役立ちます。しかし説明スタイルが本書とは違うので、私はその違いに慣れるまで苦労しました。好みによりますが、直感を大事にした本書の説明の方が良い人がいらっしゃるかもしれません。
5~6章には「マルチンゲールアプローチ入門」にはない発展的な内容も記載されていて、参考になります。
4章以降は、関連する商品を連想しながら読むと理解しやすいかもしれません。例えば、”Quantos” は「為替ヘッジありの投信」、”Multiple stock models”は「株式ETF」といった具合です。
”Derivative pricing” について書かれているので、もしかしたら「金融工学とかなんとか、という便利な知識で楽して儲けるための本」を想像する方がいらっしゃるかもしれませんが、むしろ『そもそも投資に濡れ手で粟の方法なんて、滅多にない』ことを、理解させてくれます。
不確実な中で長期的な成長を期待して取引市場という海に漕ぎ出す、投資本来の姿を理解するために、何度か読み返してみたくなる本です。