今回は掟破りで恐縮ですが、書籍ではなく2000 Graham and Dodd Award 受賞論文の紹介です。
UCLA Anderson School of Managemet の Eduardo S. Schwartz 教授 と Fuller & Thaler Asset Management の ポートフォリオマネージャー(当時)の Mark Moon 氏 が、インターネット企業の合理的な価値評価モデルを論じたものです。2000年9月に REVISITED で変更を加えました。
特徴は、Ⅰ リアルオプション理論を採用し、売上高や売上高成長率に(REVISITEDでは変動費率にも)確率過程を想定し、モンテカルロシミュレーションにより企業価値を計算していること、Ⅱ 売上高成長率などが業界の成熟に従い収束する様子を、平均回帰を前提に半減期を用いて表現していること、です。
これにより DCF法の最大の欠点の「担当者や専門家、アナリストの僅か数通りの売上予測で企業価値・株価を評価して大丈夫?」を、見事に解決しています。
Amazon.comの評価では、当時約76ドルだった同社の株価を約12ドルの価値とし、実際の株価も1年数ヶ月後に12ドル近辺まで下がりました。ところがREVISITEDで評価したExodus Communications は、倒産は5~9年後に生じ得るとし5年後の倒産確率を0.2%としましたが、その後1年程度で倒産してしまいました。倒産判定に工夫の余地があるということですが、当時のアナリストの過大な同社売上予測と比べると、モデル自体の優秀さは変わらないです。
Excelで実装する方法は、別レビューで取り上げた「リアル・オプション分析」に詳しく記載されています。但し、REVISITEDに対応させるには自分で改良する必要があります。
連続時間モデルから離散時間モデルへの導出過程を書いていないので ☆4つ としましたが、企業価値評価の新分野を切り開いた、素晴らしい論文です。